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操作ミスで契約無効? ~電子消費者契約と錯誤無効~

ECサイトでの操作ミスによる注文は取り消すことができる?

ECサイトで注文が入ったとしても,それが,消費者の方がパソコンを間違って操作したことによって入った注文だった場合,この注文は取り消されるのでしょうか?

ECサイトでの注文に限らず,間違いによって行われた注文については,「錯誤」(民法95条本文)といえ,原則として,そのような注文を行った方が取り消すことができます。

「原則として」というのは,例外があるからですが,どのような例外があるかと言いますと,注文した方の間違いが,「重過失」(つまり,人が当然払うべき注意を甚だしく欠くこと)によって起こったという場合には,取り消すことができません(民法95条但書)。

もっとも,ECにおける注文については,いわゆる「電子契約法」に,この「重過失」による錯誤の場合の例外が定められており,注文者の操作ミスに「重過失」があった場合でも,一定の要件を満たさない限り,操作ミスによって行われた注文を無効と主張することができるとされています。

以下では,どのような場合に「重過失」によって行われた注文の無効が主張できるのか,また,EC業者がこれを回避する方法について,ご説明します。

 

「電子契約法」とは?

上記のような錯誤無効に関する,ECにおける例外については,「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」という,とても長い名前の法律があり,「電子契約法」と一般に呼ばれています。

そして,この「電子契約法」3条では,

① 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間 で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかった場合。

② 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契 約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があった場合。

 

には,注文者に重過失があっても,原則として,民法95条但書が適用されずに,注文者は錯誤無効を主張することができます。

 

電子商取引法が,このように錯誤無効の「重過失」の例外規定を設けたのは,以下のような事情によるようです。

まず一つは,そもそも電子消費者契約が,操作ミスによる間違いを起こしやすい特徴があるため,そのような操作ミスをしてしまった消費者に,通常の取引の場合よりも広く解約の機会を保障するためです。

次に,ECサイトを運営する事業者は,消費者からの申し込みより前にECサイトを時間をかけて構築できますので,その過程で,消費者の申し込みの意思を確認するための措置を簡単にとることができます。

このような理由から,電子消費者契約では,その他の契約とは異なり,契約の申し込みをした消費者に「重過失」があった場合でも,一定の要件を満たせば,消費者が錯誤無効を主張することができるのです。

(なお,電子契約法3条の趣旨につき,「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律逐条解説16頁・17頁」参照。)

 

それにしても,電子契約法は,最初から正式名称「電子契約法」では何かマズいのでしょうか。。。法律の名前の付け方というのは不思議ですね。。。

 

電子契約法3条但書の「確認を求める措置」とは?

一方,ECサイト等で消費者と電子消費者契約を行う事業者としては,消費者が「重過失」により契約の申し込みをした場合に,消費者から錯誤無効を主張されることは避けたい,ということになります。

その場合には,前述の電子契約法3条但書の「確認を求める措置」を講じることになります。

正確には,消費者が契約をするための意思表示をする意思があるのかについての「確認を求める措置」ということになりますが,具体的にどのような措置がこれにあたるのでしょうか?

 

経済産業省作成の「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律逐条解説」には,この「確認を求める措置」の具体例として,以下のような例が挙げられています。

 

① 送信ボタンが存在する同じ画面上に意思表示の内容を明示し、そのボタンをクリックすることで意思表示となることを消費者が明らかに確認できる画面を設置すること

② 最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に申込みの内容を表示し そこで訂正する機会を与える画面を設置すること

 

上記の①と②はあくまで例示に過ぎませんが,消費者が契約の申し込みをする最終的な意思,さらに,PCで入力した内容で契約の申し込みを行う意思があることを明確に確認できる措置が,この「確認を求める措置」に当たるとされているようです。

 

求められるEC業者の対策

EC業者としては,上記のような「確認を求める措置」をとることで,重過失による誤操作での契約が無効になることを防止したいところです。

もちろん,一番大切なのは,事業者と消費者,双方が満足する取引ができることです。