越境ECと国際裁判管轄

今回は、越境ECでトラブルが生じ訴訟となる場合の「国際裁判管轄」についてご説明したいと思います。

 

「国際裁判管轄」とは?

まず、裁判管轄とは、個別の裁判所の間で裁判する権利をどのように分担するか、すなわち、どの裁判所で裁判を行うか、という問題のことです。

ですので、「国際裁判管轄」とは、国をまたいで裁判が行われる場合に、どこの国の裁判所で裁判を実施するか、という問題です。

越境ECでは、外国の消費者に商品を売りますので、商品の売主と買主の居住国が異なります。そこで、越境ECで商品を売買した後にトラブルとなる場合の「国際裁判管轄」がどうなるのかが問題となるのです。

なお、この「国際裁判管轄」は、どの国の裁判所で裁判を行うかの問題であり、どの国の法律・ルールに基づいて裁判をするかという、いわゆる「準拠法」の問題とは全く別の話ですので、注意が必要です。

 

国際裁判管轄の一般論

あくまで一般論としては、裁判管轄について契約書等であらかじめ合意をしておけば、その合意に従って裁判管轄が決定されます。

クロスボーダーの契約書でも、例えば以下の様に裁判管轄について取り決めをする内容の条項を見たことがある方は多いかもしれません。

 

 (合意管轄)

本契約に関する一切の訴訟については、東京地方裁判所を第一審の管轄裁判

所とする。

 

このように裁判管轄について合意がある場合には、その合意通りの管轄が認められるのが原則です。

そして、国際裁判管轄についても、上記のような管轄の合意が一般的には認められます。

 

越境ECのトラブルにおける国際裁判管轄と管轄合意の有効性

ところが、越境EC等の消費者契約においては、民事訴訟法上、管轄の合意を行うことが制限されています。

日本の民事訴訟法第3条の7第5項1号は、以下のように定めており、原則として、消費者が契約締結時に住所を有していた場所を管轄地とする合意しか認めていません。

 

 

民事訴訟法第3条の7

1 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができ るかについて定め ることができる。

5 将来において生ずる消費者契約に関する紛争を対象とする第一項の合意 は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。

 一 消費者契約の締結の時において消費者が住所を有していた国の裁判所に 訴えを提起することができる旨の合意(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。

 二 消費者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、 又は事業者が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、消費者が当該合意を援用したとき。

 

 

上記の第3条の7第5項によれば、消費者が住所を有していた国の裁判所を管轄裁判所とする合意は、上記の1号により有効とされますが、事業者の所在地国の裁判所を管轄裁判所とする合意は、消費者側から訴訟を提起された場合、もしくは、事業者が訴訟を提起した場合で、消費者が管轄の合意を認めた場合のみ、認められる(上記の2号)ことになります。

例えば、日本の事業者が越境ECで中国の消費者に商品を売ったものの、代金を支払ってもらえない場合を例にとりましょう。

仮に、当該事業者と消費者の間で、この売買契約に関する国際裁判管轄を東京地方裁判所とする、との合意があったとしても、上記の民事訴訟法第3条の7第5項によれば、日本の事業者が提起した訴訟に対して中国の消費者が応訴し、なおかつ、その消費者が管轄の合意を援用してくれた場合(上記の2号)にしか、効力を有しないことになります。

ところが、消費者側としても、通常は自分の国で裁判を行いたいと考えるのが通常ですから、日本の裁判所で自身に対して提起された訴訟に応訴しない、もしくは、応訴したとしても管轄の合意を認めずにこれを争う、という訴訟行動をとる場合が多いと考えます。

そうすると結局は、越境ECにおいて、日本の裁判所を管轄裁判所とする合意をしても、ほとんど意味がないことになります。

 

訴訟提起すること自体を避けるべき理由とは?

このように、越境ECにおいて事業者に有利な管轄合意をしていたとしても、そのような合意は基本的に有効となりません。

また、仮に日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ日本で勝訴判決を得たとしても、被告とした消費者が日本に財産を有していない場合には、その判決の執行については、別途、財産の所在する国(越境ECにおいては基本的に外国と考えてください。)において、日本の裁判所の確定判決の執行を求める必要があることには注意が必要です。

そのように考えますと、越境ECの売買代金の不払等について、裁判での解決を図るのは基本的に難しいということになります。

売買代金の不払い等については、代金の支払条件を工夫すること(代金を先払いにしてもらう等)によって、リスクヘッジを行うのが望ましいと考えます。

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