新着記事

中国「外商投資法」の成立と今後の中国進出の展望

2019年3月15日、中国で「中華人民共和国外商投資法」が成立しました。この法律は、中国に外国から投資を行う場合の会社等に関するルールをまとめたものです。外国からの投資に関する法律はこれまでも中国にありましたが、全体的な内容が大きく変わりました。

中国に進出しようとする企業はもちろん、すでに進出済みの企業にも、大きな影響がありますので、この「外商投資法」についてまとめます。

 

「外商投資法」の制定

中国には以前から、外国からの投資に関するルールとして、以下の3つの法律(外資三法)がありました。

① 中外合弁企業法

② 中外合弁経営企業法

③ 外資独資企業法

外商投資法は、これらの3法を廃止し、その代わりとして新たに制定された法律です。2020年1月1日の施行が予定されています。

外商投資法の対象となる「外国投資」とは、外国の自然人、企業またはその他の組織(外国投資者)が、直接的または間接的に、中国国内において行う投資活動を指します(外国投資法・第2条2項)。

そして、同条項によれば、買収や新規プロジェクトへの投資等も、もちろん「外国投資」に該当することになります。

なお、この法律の日本語の全文をホームページに掲載してくれている団体のページがありましたので引用します。

https://spc.jst.go.jp/experiences/chinese_law/19006.html

 

以下の文中における外商投資法の条文の引用と具体的内容は、以下のページに準拠します。

 

外商投資法の概要

外商投資法は、従前の外国投資の管理方式を以下の通り変更しました。

 

 審査・認可制度の廃止

これまで、外商投資による会社設立、変更、および会社の解散等について、逐一、中国政府の認可を得る必要がありました。

しかし、外商投資法施行後は、認可を得ることは必要とされず、原則として、届出のみで足りるということになりました。そして、外国投資会社には、投資参入段階で、外国投資者およびその投資に対し、国内投資に対する待遇を下回らない待遇(参入前国民待遇)が与えられます(外商投資法4条1項)。

 

 ネガティブリストによる外国投資の制限

もっとも、全ての外国投資がフリーハンドに自由化されるわけではなく、外商投資法は、投資が禁止される分野、および投資が制限される分野をリストアップする方式で、中国政府が分野によって外国投資を制限することになります。

外商投資法は、4条1項において、このネガティブリスト管理制度の実施を規定し、同条3項では、「ネガティブリストは、国務院が公布又は交付の認可をする。」と定めています。

現時点では、このネガティブリストとして、「外商投資参入特別管理措置」(2018年度版)が存在しますが、ネガティブリストの具体的内容は、外商投資法に規定されるものではなく、国務院が定めることになります。このリストの内容に、どのような分野で外資を呼び込みたいか、という中国政府の意思が反映されることになります。

 

 外資三法(前述の①から③)の廃止による影響

前述の通り、外商投資法の制定に伴って、前述の①から③のいわゆる外資三法は廃止されます。

この外資三法には、外国投資により設立された会社、特に外国と国内の資本による合弁企業(中外合弁企業)の組織等に関する特別なルールが定められており、例えば以下のように、国内会社との違いがありました。

 

〇 国内会社では株主会(日本でいう株主総会)が最高の意思決定機関である一方、中外合弁企業 では、董事会(日本でいう取締役会)が最高の意思決定機関

〇 国内会社では董事の任期は1期3年を超えてはならないのに対し、中外合弁企業では、董事の任期は4年。

〇 合弁会社の利益の分配について、国内の合弁企業では、契約に定める比率および方法に従い分配することができるとされているのに対し、中外合弁企業では、出資比率に従い分配する必要がある。

 

今後は、外資三法の廃止に伴い、外国投資による会社であっても、国内会社と同様の組織を作ればよいということになります。

 

既存の会社に対する外商投資法制定の影響

前述の通り、これまで主に中外合弁企業法(前述の①)に基づいて、通常の会社法のルールとは異なるルールで、外国資本による合弁企業が設立されてきました。

外商投資法が施行される以前に外資三法に従って設立された会社については、外商投資法が施行される時点から5年以内に、外商投資法に適合した組織にする必要があります。

例えば、中外合弁企業法によれば、外国資本による合弁会社には必要が無かった株主会を、新たに設置する必要がある等、会社の組織を作り替える必要が生じる可能性が高いといえます。

 

まとめ

「中華人民共和国外商投資法」の特徴を見る限り、中国は、活発に外国からの投資を呼び込もうと考え、そのような方針に合わせた政策を実施しています。

この法律の制定を含め、中国への投資、企業進出の受け入れに関する中国政府の姿勢には今後も注目です。