新型コロナウイルス感染拡大と児童虐待

私は、東京都にある児童相談所で非常勤弁護士をしています。児童相談所は、緊急事態宣言が発令された状況でも稼働を続けており、日夜、児童虐待の防止に取り組んでいます。

本記事では、新型コロナウイルスの感染拡大が児童虐待問題に与える影響について、私の考えをまとめました。

 

“Stay Home”がもたらす家庭環境の変化

新型コロナウイルスの感染拡大により、東京都等の7都府県では4月7日から、その他の都道府県では4月16日から、緊急事態宣言が出され、外出の自粛が要請されるようになりました。

この外出自粛の要請は、各家庭環境に以下のような影響を与えています。

家庭外で時間を過ごしていた子どもの居場所が無くなる

保護者との関係が良くなく、家庭に居られない子どもは、インターネットカフェや等を家庭外の居場所としてきました。

ところが、そのような場所に外出をすることができなくなり、そのような居場所が無くなってしまいます。

それでも家に帰れることが出来ない(帰れるような家庭環境ではない)子どもは、居場所が無くさまようことになりますし、家に帰れるとしても、後述の通り家庭でストレスを抱えることになります。

父親等、普段はいないメンバーが「いる」ようになる

外出自粛により、普段、仕事等で家庭にいない父親等が、家庭にいる時間が長くなります。

そのような親との関係がもともと良くなかった子どもにとっては、それ自体、ストレスが増すきっかけになりますし、もし、そのような親から虐待を受けていた場合には、その機会が増えることになります。

また、もともと夫婦関係が良くない家庭の場合には、子どもが夫婦喧嘩や夫婦間暴力を目の当たりにする機会が増えます。

このようなことが、子どもの心理にストレスや負担を与えるうえ、子どもが、そのような環境の変化によってストレスが増した保護者からのストレスのはけ口にされてしまう恐れもあります。

このように、家庭で問題を抱えた子どもにとっては、“Stay Home”ということ自体、簡単ではありません。

 

児童相談所による家庭訪問が難しくなり家庭が見えなくなること

また、児童相談所のケースワークでは、虐待が疑われる家庭を直接訪問することにより、

・ 母親の交際相手が同居している

・ 部屋が荒れておりごみ屋敷状態

 

等の具体的な家庭環境を知ることができ、これが虐待発見のきっかけになる、すでに虐待が疑われている子どもについて家庭の問題点がクリアになりアセスメントが進みやすくなる、等の効果がありました。

ところが、児童福祉司や心理司といった児童相談所の職員の出勤回数が限定されると、家庭訪問に割く時間は少なくなります。

また、訪問による感染を恐れて、各家庭が家庭訪問に拒否的になる傾向は強まりますし、場合によっては、虐待発覚を恐れた保護者が、感染防止を理由に家庭訪問を断るケースもあるかもしれません。

このように、家庭訪問が難しくなり、家庭の状況が見えなくなることで、本来発見できていたはずの虐待が発見できなくなったり、家庭の問題の整理・解決が遅れる、という影響が出てくると考えられます。

 

さいごに

政府も上記のような影響を危惧していると考えられ、DV問題と併せて、「地域のネットワークを総動員し、子どもの過程の状況を定期的に把握する」との方針を打ち出しており、具体的にどのような対策が行われるのか気になるところです。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020042401080&g=pol

また、今回の新型コロナウイルスの感染拡大がいったん収束したとしても、その後も「外出する」「外にいる」「外部から人を家庭に入れる」ということについての意識に変化が生じ、それによって、前述のような影響は生じ続けると思われます。

児童虐待防止法制自体や虐待防止のための各機関も、そのような社会の変化に対応していく必要があるでしょう。

 

以下の記事でも、児童虐待や児童相談所について書いていますので、ご参照ください。

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