体罰の禁止と「しつけ」 ~児童虐待防止法・児童福祉法改正をきっかけとして考える~

先日、子どもと一緒に上野の国立科学博物館で開催されている「恐竜博 2019」に行ってきました。このイベントが始まったばかりだったのでとても混雑しており、入場まで30分程度、並んで待つことになりました。

周りにもやはり親子連れが多かったのですが、あるお父さんが、息子さんが動き回るのを止めるために、息子さんのほっぺたを「パチン」と叩いているのを見かけ、なんとも言えない気分になりました。

このような、いわゆる「体罰」を禁止する児童福祉法・児童虐待防止法の改正法が先月成立しています。そこで今回は、「体罰」の禁止についてまとめてみたいと思います。

 

児童福祉法・児童虐待防止法改正の全体像

今回国会を通過した児童福祉法・児童虐待防止法の改正案は、主に以下の内容を含むものです。

 

・ 体罰禁止

・ 民法の懲戒権、施行後2年をめどに見直し。

・ 児童相談所の一時保護と親権者支援の担当を分ける

・ 学校や教育委員会、児童福祉施設の職員に守秘義務を課す

・ 親が引っ越した場合に速やかな情報共有に努める

 

この改正は、昨年度に目黒区や千葉県で発生した虐待による子どもの死亡事件を主なきっかけとして、そのようなことが二度と起こらないように制度を整える趣旨のものであると言われています。

法改正の内容として含まれる「体罰の禁止」も、上記の2件において、親権者やその同居人が、「しつけ」を理由に子どもに継続的に体罰を与えていたことから、法律で明確に定められるに至りました。

 

平成28年の児童福祉法改正の際にも「体罰禁止」を児童福祉法に盛り込む動きがありましたが、この時には実現しませんでした。平成28年改正を受けた日本子ども虐待防止学会(JASPCAN)の勉強会で、それ以前から体罰禁止の法制化を求めて活動をされてきた、「特定非営利活動法人 子どもすこやかサポートネット」の田沢茂之さんが、「体罰禁止の法制化を求めてきたが、実現しなかった。」という報告をされていましたが、田沢さんをはじめとした、体罰禁止を求めて活動されてきた方々の思いがやっと実現した、ということになります。

なお、この「子どもすこやかサポートネット」では、ホームページで体罰の禁止に関して想定される質問をQ&A方式で分かりやすくまとめています。

 

https://www.kodomosukoyaka.net/pdf/2010-QandA.pdf

 

虐待防止から考える「体罰」

前述のように、「しつけ」を理由として子どもの体罰を与える場合が多いことから、これを法律で禁止すると、「体罰はしつけに必要なのに、なぜ禁止されるのか」といった質問がなされることが考えられます。

そこで以下では、あくまで私見を述べる形でこの疑問に答えることで、「体罰」は法律で禁止する必要がある、ということについてご説明したいと思います。

 

「体罰」とは何か?

「体罰」の定義については、国連の「子どもの権利委員会」による以下の解釈が参考になります。

 

 委員会は、「体」罰を、どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ何らかの苦痛または不快感を引き起こすことを意図した罰と定義する。ほとんどの場合、これは手または道具―鞭、棒、ベルト、靴、木さじ等―で子ども を叩くという形で行なわれる。しかし、たとえば、蹴ること、子どもを揺さぶったり放り投げたりすること、引っかくこと、つねること、かむこと、髪を引っ張ったり耳を打ったりすること、子どもを不快な姿勢のままでいさせること、やけどさせること、 薬物等で倦怠感をもよおさせること、または強制的に口に物を入れること(たとえば子どもの口を石鹸で洗ったり、辛い香 辛料を飲み込むよう強制したりすること)をともなう場合もありうる。

 

今回の改正案で「体罰」がどのように定義されているかは、まだ確認できておりませんが、基本的に国連による上記の解釈に近い定義がなされていると思われます。

 

なお、以前から「身体的虐待」については、児童虐待防止法により禁止されていました。この身体的虐待は、「児童の身体に外傷が生じ、又はおそれのある暴行を加えること」(児童虐待防止法2条1号)と定義されています。反対に言えば、外傷が生じる恐れが無い暴力については、法律で禁止されていなかったことになります。

今回の法改正によって、外傷が生じる恐れが無い程度の、例えば、ほっぺたを叩く等の罰を与えることも、「体罰」として禁止されることになります。

 

なぜ「体罰」は禁止されたのか?

それではなぜ、「体罰」は良くないこととして禁止されたのでしょうか。

これは、体罰によって子どもに言うことを聞かせてしまうと、子どもが何をすべきなのか、子どもの理解が進んでいかないからです。子どもは、親から言われたことについて、親の指示を真から理解してこれに従うのではなく、「体罰を加えられたくないから」親の言うことを聞こうと考えてしまいます。そうしますと、子どもは「何が正しいのか」を考える力が付きません。

さらに、そのような体罰が繰り返される結果、子ども達は、暴力で問題を解決することを学んでしまう恐れすらあります。

 

「体罰」を行わずにどのように子どもにしつけを行えばよいか?

また、これまで体罰を子どものしつけに用いてきた親からは、「体罰」を行わずに

どのように子どものしつけを行えばよいのか、という声が上がることが考えられます。

今回の法改正は、この疑問に直接答えるものではありませんが、一つの参考になるのが、セーブ・ザ・チルドレンがまとめた、「ポジティブ・ディシプリン」という、しつけ・子育ての手法です。

この「ポジティブ・ディシプリン」のフレームワークは、

 

・ 長期的なゴールを定める。

・ 愛情(優しさと安心)を注ぎ、論理的に情報とガイドを提供する。

・ 発育段階に応じた子どもの気持ちを理解する。

・ 論理解決型の手法を取る。

 

(Save the Children ポジティブ・ディシプリン https://www.savechildren.or.jp/sc_activity/japan/pd.html

 

というものであり、暴力ではなく、子どもとの粘り強い対話(言葉や論理のやりとり)をしつけの手法の基礎とするものです。

このような「ポジティブ・ディシプリン」をはじめとした、言葉や論理のやりとりによって、子どもに理解を求めていくしつけのやり方を広めていくことが、「しつけ」を理由とする体罰や虐待を少なくするキーとなりそうです。

 

東京都「子供への虐待の防止等に関する条例」での体罰の禁止

児童虐待防止法の改正に先立ち、東京都では、平成31年3月に「子供への虐待の防止等に関する条例」が成立し、同年4月1日から施行されています。

この条例も、保護者の子どもへの体罰の禁止を内容に含んでいます。全国で初めて体罰を禁止した条例で、前述の児童福祉法・児童虐待防止法改正の足掛かりになったものと位置付けられています。

 

まとめ

今回の児童福祉法・児童虐待防止法の改正と、これに先立つ東京都の「子供への虐待の防止等に関する条例」の制定により、体罰禁止の法制化が一気に進みました。

今後、子どもを持つ全ての親が子どもを叩かない教育・しつかを行う世の中にするためには、なぜ体罰が許されないのか等について、個人レベルで理解を広めていく必要があります。

体罰禁止の法制化は、その出発点としての意味があると考えます。

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