国際販売店契約と紛争解決

 前記事( 低リスクで海外に自社商品を展開する方法 ~国際販売店契約締結のポイント~ )では、国際販売店契約のポイントについてまとめました。

 メーカーが各ポイントを意識して国際販売店契約を締結した場合でも、販売店との間で以下のようなトラブルが発生する可能性があります。

 

・販売店が売上げを過少申告しており、契約で取り決めたマージンを支払ってくれない。

・販売店の関係者が模倣品を製造して現地で販売したため、メーカー製品の売り上げが減少した。

・販売店契約の解除事由が発生したのでメーカーとしては販売店契約を解除したいが、販売店から多額の補償金や損害賠償を請求されている。

・販売店契約の解消後、販売店が残った在庫を安価で売却し、メーカー製品のブランド価値が大きく損なわれた。

 

 このような紛争において、有効な紛争解決手段を選択することが重要です。

 そこで本記事では、国際販売店契約における紛争解決の手段について、まとめます。

 

訴訟による解決は現実的ではない

 メーカーが前述のようなトラブルに見舞われた場合の解決方法として、まず思いつくのが訴訟による解決です。

 メーカーが販売店に損害賠償等の請求をするケースにおいて、現地で訴訟によって判決を得られれば、現地の法律に基づいて強制執行ができます。

 しかし、外国で訴訟、仲裁を行う事になった場合、現地の弁護士に依頼するための費用等、莫大な費用が掛かります。また、ケースによっては数年かかるものもあります。さらに、強制執行の対象が分からない場合、裁判に勝っても強制執行が出来ず、結局販売店に逃げられてしまうこともありまsす。

 それなら裁判管轄を日本の裁判所に定め、日本で裁判をやればよいとも思われますが、日本で得た判決は外国では強制執行できないのが原則ですので、日本で裁判に勝っても、販売店が任意に支払いをしてくれないと、意味がありません。

 また、そもそも日本の裁判所に裁判管轄を定めることは、販売店側が難色を示す可能性があります。

 このように、国際販売店契約に関する紛争について、訴訟による解決は現実的ではありません。

仲裁による解決のメリット・デメリット

 一方、仲裁による解決する方法もあります。

 仲裁とは、私人間の合意に基づいて、第三者を選任し、その者の判断によって紛争解決を図る手続をいいます。
クロスボーダーの紛争に関する仲裁が行われているのは主に以下の機関です。

 

 ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)

 アメリカ仲裁協会(AAA)

 シンガポール国際仲裁センター(SIAC)

 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)

 日本国際紛争解決センター(JIDRC)          etc

 

 国際仲裁の結論として出された仲裁判断については、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)に基づき、どこの国で出された仲裁採決であっても、これを根拠に他の国で強制執行が可能です。

 日本はニューヨーク条約に加盟していますので、相手国(メーカーが日本企業であれば販売店の現地国)もこの条約に加盟していれば、日本で行われた国際仲裁の採決を根拠に、販売店の現地国で執行ができることになります。

 この意味では、国際販売店契約に関する紛争を解決する手段として、訴訟よりは仲裁の方が使い勝手がよさそうです。

 紛争を国際仲裁により解決するには、双方の当事者が仲裁により紛争を解決することにあらかじめ合意することが必要です。

 そこで、例えば以下のような仲裁合意条項を販売店契約書に入れておくことになります。

 本契約に関し当事者間に生ずることがある全ての紛争、論争又は意見の相違は、中国国際経済貿易仲裁委員会により、その仲裁規則に従って、北京で仲裁により最終的に解決されるものとする。

 

 いざ紛争となった際にスムーズに仲裁を行うために、上記の通り、仲裁を行う機関、場所を特定しておく必要があるでしょう。

 もっとも、そのような仲裁も、訴訟ほどではありませんが、時間や手間がかかりますし、弁護士費用も相当程度かかりますので、その意味では、仲裁を起こせば問題なく紛争が解決できる、というものではありません。

 以下、訴訟と仲裁の違いのうち、明確に異なる点に絞って表にまとめました。

                                                訴訟と仲裁の相違点

訴訟 仲裁
外国での判決・判断の執行力 原則執行できない。 ニューヨーク条約締約国同士であれば執行可能。
手続きに関する合意の必要性 合意は必要なし。 双方の仲裁合意に基づく必要あり。
期間 数年かかる場合もある。 複雑な紛争の場合に長期になりうる。複雑ではない事案については簡易仲裁(Expedited Arbitration)を選択可能。
上訴 可能。(日本法における「控訴」「上告」) 訴訟の「控訴」に該当する制度はなく、仲裁判断に不満があっても上位機関で再度審理することができない。

 

紛争回避を意識した契約条項・対策

 以上のように、一度メーカーと販売店との間で紛争が生じてしまうと、訴訟も仲裁もある程度の時間や手間がかかり、万能な方法とは言えません。そこで、やはり契約締結の段階で、紛争の恐れをなるべく排除しておく必要があります。
メーカーが紛争を未然に防ぐ方法としては、以下のようなものがあります。

・事前に販売店(候補)の会社の信用等について十分に調査を行う。

・販売店からの支払を前払いにする。

・模倣品が出回るのを防ぐため、自社商品の製法等、企業秘密を販売店と共有しない。どうしても、という場合には秘密保持契約(NDA)を交わす。

 

まとめ

 このように、販売店契約において、いざ紛争となった場合には、訴訟よりは仲裁により解決を図る方が現実的ではありますが、仲裁も万能ではありません。上記のような手段で可能な限り紛争を未然に防ぐことが必要です。

 販売店契約に関しては、以下の記事もご参照ください。

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